白髪にグレージュやアッシュが向く理由と、その限界
白髪の相談をすると、かなりの確率で出てくる色があります。グレージュ、アッシュ、シルバー。名前は違っても、向いている方向は同じです。寒色、つまり青みを含んだ色。
なぜ、白髪の話になると寒色が出てくるのか。ここには色彩上の理屈があります。そして、その理屈が効かなくなる場面も、はっきり存在します。
この記事では、白髪に寒色が選ばれる仕組みと、選んだあとに待っている現実を、白髪改善ソムリエ®が整理します。
この記事の前提
ここで扱うのは、髪にどう色をのせて、どう見せるかという着色の話です。白髪そのものを減らしたり、元の色に戻したりする方法ではありません。仕上がりは髪質・白髪の量・これまでの施術履歴によって変わります。
そもそも、グレージュとアッシュは何が違うのか
言葉の整理から始めます。厳密な業界基準があるわけではなく、サロンによって呼び方に幅があります。おおよその共通理解としては、こう分かれます。
- アッシュ:灰色・青みを強く感じる方向。赤みを消す力が強い
- グレージュ:グレーとベージュの中間。灰色に、わずかな黄みや茶みを足した方向
- シルバー:明るい灰色。白に近い明度でグレーを見せる方向
3つに共通しているのは、青系の色みを含んでいることです。この記事では、まとめて「寒色」として扱います。
白髪が黄ばんで見えるのは、なぜか
寒色が選ばれる理由を理解するには、先に「黄ばみ」を押さえておく必要があります。
白髪は、メラニン(髪に色をつける色素)がほとんど入っていない状態の毛です。無色に近いぶん、光をよく反射して白く見える。ここまでは、白髪が生えるメカニズムで扱ったとおりです。
ところが、実際の白髪は真っ白ばかりではありません。黄色みを帯びて見えることがあります。背景として挙げられているのは、紫外線による毛髪タンパク質の変化、日々の酸化、整髪料やシャンプーの残留、そして髪そのものがもともと持つわずかな色みです。白い服が年月とともに黄ばんでいくのと、感覚としては近い。なお、これらは美容の分野で広く語られている要因で、公的機関の資料で確認できる範囲は限られます。ここではそれぞれ可能性として挙げています。
もうひとつ。日本人の地毛は、明るくすると赤みやオレンジみが出ます。 日本人の髪に多いのはユウメラニン(赤褐色の色素)で、もうひとつのフェオメラニン(黄赤色の色素)は少量です。明るくしていく過程では、まずユウメラニンが分解されて赤みが抜け、残ったフェオメラニンの色が出てオレンジみに、さらに進むと黄みへ。赤→オレンジ→黄の順に下地が出てくる、というのが実際の流れです。
つまり、白髪の側は黄ばみやすく、地毛の側は明るくすると赤みが出る。どちらも「黄〜オレンジ」に向かうというのが、白髪世代の髪色の出発点です。
寒色が黄ばみを打ち消す、その仕組み
ここで色彩の話が効いてきます。
色相環(色を輪にして並べた図)では、向かい合う位置にある色どうしを補色と呼びます。輪をいくつに分けるかで対応は少しずれますが、黄に近いグループは紫が、オレンジに近いグループは青が、それぞれ色みを抑える方向に働くと一般に説明されます。補色を重ねると、互いの色みが打ち消し合って、彩度の低い落ち着いた色に見える。この関係が使われています。
寒色系のカラーがやっているのは、これです。黄ばみやすい白髪と、赤みの出やすい地毛。その両方に、青や紫の色みを重ねて、黄〜オレンジの主張を抑える。結果として、灰みがかった落ち着いたトーンに着地します。
紫のシャンプーやトリートメントが「黄ばみ対策」として使われるのも、同じ理屈です。あれは髪表面に紫の色をのせているだけで、黄ばみを取り除いているわけではありません。打ち消しているのであって、消しているのではない。 ここは押さえておいてください。
そしてもうひとつ、白髪と寒色の相性を後押しする事情があります。白髪はメラニンがほぼないため、のせた染料の色がそのまま出やすい。黒髪では発色しにくい繊細な灰色みも、白髪の上でなら出てきます。
ただし、これは条件つきです。白髪は染料の濃度が足りないと色が乗りきらず、放置時間も要ります。色が出やすいのは、薬剤の設計と時間が揃った場合の話。きれいな灰色みが出るかどうかは、配合・履歴・髪質に左右されます。
白髪の割合で、仕上がりは変わる
ただし、同じ寒色を入れても、白髪の割合で見え方はまったく変わります。
白髪が1〜2割程度。 白髪の部分だけが明るい灰色に、地毛はやや暗い灰みの茶色に。この差が「ハイライトのような立体感」に見えることがあります。狙って作れば、いちばん自然な範囲です。
白髪が3〜5割。 白髪と地毛の面積が拮抗してくるため、色の設計がシビアになります。差を残せば立体的に、差を詰めれば均一に。どちらを選ぶかの意思決定が要る領域です。
白髪が6割以上。 髪全体が「白髪という土台」に近づくため、寒色はほぼ全面に乗ります。ここでは、グレイヘアそのものをきれいに見せる方向と地続きになる。逆に、明るい筋でぼかす設計はこの帯から効きにくくなります(白髪が8割になると、白髪ぼかしは効きにくくなる)。移行を視野に入れている場合はグレイヘアへ移行するタイミング、判断そのものに迷いがある場合は白髪が7割・8割になった時の選択肢を参照してください。
自分の白髪の量を大まかに把握しておくこと。色を決めるより、そちらが先です。
寒色を選ぶ前に知っておきたい、3つの限界
ここからが本題かもしれません。寒色には、はっきりした弱点があります。
限界1:色が抜けたあと、黄みが戻ってくる。 寒色は、黄みを打ち消して成立している色です。重ねた青や紫の色素が洗うたびに落ちていけば、打ち消しが弱まり、下地の黄〜オレンジが戻ってきます。寒色系は暖色系より色みの変化が早く感じられやすい、というのは美容の現場で広く共有されている感覚です。ただ、その理由を色素の分子の大きさなどで説明する解説は見解が分かれており、ここでは起きる現象として押さえておきます。きれいな期間が短い、というのが最も多い不満です。
限界2:明るさを上げないと、寒色は出にくい。 灰色みを感じさせるには、ある程度の明るさが要ります。暗いまま寒色を入れても、単に暗く重い色になりやすい。ここは現場での経験則にあたる部分です。明るくすればそのぶん髪への負担は増える。ここはトレードオフです。暗さと明るさの選び方は白髪は暗く染めるか、明るく染めるかで扱っています。
限界3:白髪の染まり方が均一とはかぎらない。 白髪はハリのある毛が混ざり、染料の入り方に差が出ることがあります。狙いより明るく残る毛、暗く沈む毛。寒色は淡い色みで見せるぶん、このばらつきが表に出やすい面があります。
3つとも、寒色が悪いという話ではありません。維持に手間がかかる色である、という話です。
色をもたせるための、現実的な手当て
限界を踏まえたうえで、実際にどう運用するか。
紫やシルバーの色つきシャンプー・トリートメントを併用する。 髪表面に色をのせて黄みを打ち消す化粧品です。染めるものではないので、洗うたびに落ちます。使う頻度が高すぎると、色が濃く沈んで見えることもあるため、週に何回という単位で調整するのが現実的。仕組みと位置づけは白髪トリートメントとカラートリートメントの違いで整理しました。
洗いすぎない、熱をかけすぎない。 色素は洗浄と熱で流れます。洗浄力の強いシャンプーを避ける、乾かす前に長く放置しない。地味ですが、色もちに効きます。シャンプー選びの考え方は白髪が気になる人のシャンプー選びへ。
根元と中間・毛先を分けて考える。 根元は白髪を染める工程、中間から毛先は色みを補う工程。この2つを同じ薬剤で一度に済ませようとすると、毛先が暗く沈んでいきます。塗り分けの考え方は白髪染めの頻度にも関わります。
明るい筋を併用する。 ハイライトを入れておくと、色が抜けても白髪との差が開きにくく、寒色の抜け際も汚く見えにくい。維持の負担を下げる設計です(白髪を活かすハイライト)。
染める前に、安全の話をひとつ
色の話の前に、押さえておきたい前提があります。
日本ヘアカラー工業会は、ヘアカラーを使う前に、毎回、48時間前からパッチテスト(皮膚に少量つけて反応をみる試験)を行うよう案内しています。これまで何度も問題なく染めてきた方でも、体質の変化などにより、ある日突然かぶれるようになることがあるためです。毎回の実施が案内されているのは、酸化染毛剤(いわゆるヘアカラー・白髪染め)などの永久染毛剤と、ヘナ・ヘナ由来物を含む製品です。ヘアマニキュアなどの半永久染毛料は区分が異なりますが、製品によってはパッチテストが案内されるため、表示を確認してください。
テストの途中で、塗った部分に発疹、発赤、かゆみ、水疱、刺激などの異常を感じたときは、48時間を待たずにすぐ洗い落とし、染毛は行わないでください。酸化染毛剤のパッチテストや使用で一度でも異常が出た方は、以後、別の製品を含めて酸化染毛剤を使わず、そのパッチテストも行わないこと。
もうひとつ。パッチテストで異常が出なかったからといって、本番で反応しないと決まるわけではありません。米国FDAも、毎回の皮膚テストを勧めたうえで、陰性でも使用時に反応が起きうると案内しています。
かぶれを起こしやすい成分として、パラフェニレンジアミン(PPD)が知られています。過去にヘアカラー(酸化染毛剤)でかぶれたことがある方は、以後、酸化染毛剤を使わないでください。日本ヘアカラー工業会もそう案内しています。黒色のヘナタトゥー(ブラックヘナ)を経験したことがある方も、PPDを含む製品で反応が出るリスクが高いとNHSは案内しています。心当たりがあれば、成分表示を確認したうえで、施術前に伝えてください。
寒色を出すために明るくする工程が入る場合は、頭皮への刺激と髪の負担についても、事前に確認しておいてください。
白髪改善ソムリエ®としての見解
寒色と白髪について、白髪改善ソムリエ®としての整理は3点です。
第一に、寒色は「打ち消す色」だと理解しておくこと。黄ばみを取り除いているのではなく、上から別の色みを重ねて釣り合わせている。だから抜ければ戻ります。この前提を持っていれば、色が変わってきたときに「失敗した」と感じずにすみます。
第二に、維持の手間まで含めて選ぶこと。染めた直後の写真だけで決めると、3週間後に落胆します。色つきトリートメントを続けられるか、洗い方を変えられるか。そこまで見て選ぶほうが、満足度は安定します。
第三に、白髪の量が変われば、同じ色でも見え方は変わること。5年前に似合った配合が、今の白髪率では別の見え方をします。定期的に設計を見直すこと。白髪改善ソムリエ®が大切にしているのは、髪と頭皮の状態を守りながら、見え方の条件から整えていく考え方です。
専門家に相談するという選択肢
次の場合は、色の相談より先に医療機関へ。
- ヘアカラーの使用中や使用後に、かゆみ、赤み、腫れ、水ぶくれなどが出た
- 頭皮に湿疹、かさぶた、強いかゆみ、痛みがある
- 過去にヘアカラーで異常が出たことがある
相談先は皮膚科です。ただし、息がしづらい、唇や喉が腫れる、飲み込みにくい、強いめまいがあるといった全身の症状が出たときは別です。まれではありますが重いアレルギー反応の可能性があるため、すぐに119番へ。自分で運転して受診しないでください。
そこまでではないけれど、自分の白髪に寒色が向くのか判断がつかない。そんなときは、髪を直接見てもらうのが早道です。白髪の割合、地毛の明るさ、これまでに入れた染料の履歴。同じ「グレージュ」という言葉でも、そこから逆算される配合はまったく別になります。白髪改善ソムリエ®は、白髪との向き合い方やケアの考え方を学ぶ民間資格です。国家資格ではなく、診療や医療的な判断を行うものではありません。
白髪との向き合い方の全体像は、白髪改善ソムリエ®メソッドの詳細ページでも整理しています。あわせてご覧ください。
よくある質問
Q. グレージュとアッシュ、どちらを選べばいいですか?
A. 赤みを強く抑えたいならアッシュ寄り、やわらかさを残したいならグレージュ寄り、という選び方が目安になります。ただし呼び方はサロンによって幅があるため、色名で伝えるより「赤みを抑えたい」「柔らかく見せたい」と方向で伝えるほうが、意図が通ります。
Q. 白髪染めでもグレージュやアッシュにできますか?
A. できます。白髪をしっかり染める処方でも、寒色系の色みを配合した設計があります。ただし白髪を確実に染めるには染料の濃度が要るため、明るく淡い灰色みは出しにくくなります。どこまで白髪を隠すかと、どこまで寒色を出すかは、ある程度トレードオフの関係です。
Q. 紫シャンプーを使えば、白髪の黄ばみは取れますか?
A. 取り除くものではありません。紫の色みを髪表面にのせて、黄みを視覚的に打ち消す化粧品です。洗うたびに落ちるため、続けて使うことが前提になります。使いすぎると色が濃く沈んで見えることもあるので、頻度は様子を見ながら調整してください。
Q. アッシュはすぐ色が抜けると聞きました。本当ですか?
A. 寒色系は、暖色系に比べて色みの変化が早く感じられやすい傾向があります。染料が抜けるにつれて、下地の黄みやオレンジみが戻ってくるためです。色つきトリートメントの併用、洗浄力の穏やかなシャンプー、熱のかけすぎを避けるといった手当てで、体感は変わります。
Q. 白髪が多いほうが、寒色はきれいに出ますか?
A. 白髪は色素がほとんどないため、のせた色みは出やすくなります。一方で、白髪の割合が高くなるほど全面に色が乗るので、明るさや濃度の設計はシビアになります。「出やすい」ことと「扱いやすい」ことは、別の話です。
まとめ
- グレージュ・アッシュ・シルバーに共通するのは、青系の色みを含む「寒色」であること
- 白髪は黄ばみやすく、地毛は明るくすると赤みが出る。どちらも黄〜オレンジに向かう
- 寒色は補色の関係で、その黄〜オレンジを打ち消して落ち着いたトーンに見せている
- 白髪はメラニンがほぼないため、寒色の繊細な色みが乗りやすい土台でもある
- 限界は3つ。色が抜けると黄みが戻る/明るさを上げないと出にくい/染まりが均一とはかぎらない
- 維持には、色つきトリートメント・洗い方・塗り分け・ハイライト併用といった手当てが要る
- 酸化染毛剤は毎回48時間前のパッチテストが案内されている。異常があれば皮膚科へ、全身症状があればすぐ119番へ
寒色は、白髪と相性のいい色です。ただし、放っておいてきれいなままの色ではありません。仕組みを知って選べば、抜けてきたときの見え方まで含めて設計できます。
監修:白髪改善ソムリエ®
※本記事は一般的な情報の整理であり、特定の効果・効能を保証するものではありません。髪質や白髪の量によって仕上がりには個人差があります。ヘアカラーの使用で異常が出た場合、頭皮に湿疹やかゆみがある場合は、皮膚科などの医療機関にご相談ください。
参考にした主な情報源
- 日本ヘアカラー工業会(JHCIA)「皮膚アレルギー試験(パッチテスト)について」(毎回48時間前からの実施の案内/体質の変化により突然かぶれるようになる場合があること/塗布部に発疹・発赤・かゆみ・水疱・刺激などの異常を感じたら48時間を待たずに洗い落とすこと/酸化染毛剤で異常が出た方は、以後、別の製品を含め酸化染毛剤を使用しないこと/対象は永久染毛剤とヘナ・ヘナ由来物を含む製品)
- 日本救急医療財団 心肺蘇生法委員会「救急蘇生法の指針2020(市民用)」(厚生労働省が周知。アナフィラキシーが疑われる症状では直ちに119番通報)
- 米国FDA「Hair Dyes」(使用のたびに皮膚テストを行うことの推奨/テストで反応がなくても、その後の使用時に反応が起こりうること)
- NHS「Hair dye reactions」(ヘアダイによる皮膚炎の症状/パラフェニレンジアミン(PPD)がかぶれの主な原因成分であること/ブラックヘナのタトゥー経験がある場合は反応のリスクが高まること/まれに起こる重いアレルギー反応=呼吸困難・唇や喉の腫れ・嚥下困難などは緊急の対応が必要)
- 毛髪メラニンの2種類(ユウメラニン=赤褐色系で日本人の黒髪に多い/フェオメラニン=黄赤色系)と、脱色が進む過程で赤→オレンジ→黄と下地色が変化することに関する毛髪科学の一般的な整理
- 色相環における補色関係と、補色を重ねたときの彩度低下に関する色彩理論の一般的な整理(対応する色は色相環の分割数により多少異なる)
- 白毛の黄変に関わる要因(紫外線による毛髪タンパク質の変化、酸化、整髪料等の残留)についての整理(※美容分野で広く語られている要因で、公的機関の一次資料は限定的)
- 日本化粧品工業会(JCIA)「髪の毛を染めるしくみ」(薬機法上の区分=染毛剤は医薬部外品・染毛料は化粧品/脱色と酸化発色の機序)
- MedlinePlus(米国国立医学図書館 NLM)「Aging changes in hair and nails」(白髪化は主に遺伝で決まること)
- 染毛剤・染毛料の区分(酸化染毛剤は医薬部外品、ヘアマニキュア・カラートリートメント等の染毛料は化粧品)に関する一般的な整理